技術

キャピラリー用ガラス材料(Glass Materials for capillaries)

Fig. 1 Glass materials for capillaries manufactured at Nakahara Opto-Electronics Laboratories, Inc. (NOEL).

(株)中原光電子研究所では石英ガラス(Vitreous Silica )とホウケイ酸ガラス(Borosilicate Glass)を主な材料として使用しキャピラリーを製造販売しています(Fig. 1)。 一般的には石英ガラスの軟化温度(Softening Temperature)は1700℃に近い温度であり他のガラス材料や通常の金属材料に比べて非常に高温まで耐えられます。また透明度も高く、紫外線も良く通します。鉛フリーであり、鉄などの不純物の混入はいずれもppm~ppbまで低減されています。

しかし、半導体用途や特殊な分析、光学用途などで場合によっては各種の石英ガラスを適切に使い分けることも重要になってきます。

ホウケイ酸ガラスは石英ガラスに次ぐ耐熱性を示すガラス材料です。軟化温度は820℃ですのでやはり通常のガラス材料よりも高温に耐えます。光通信用のファイバアレイ(Fiber array)、理化学用などに多く使用されています。

そのほか、(株)中原光電子研究所ではフッ素ドープ石英ガラス、BK-7や希土類元素を組成として含んでいる特殊なガラスからキャピラリーを製造することも可能です。どのようなガラス材料でキャピラリーを製造したらよいか選択に迷う場合にはお気軽にお問い合わせください。

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以下石英ガラスについて解説します。

1-1.石英ガラス

石英ガラスは天然石英ガラス(Fused Quartz)と合成石英ガラス(Synthetic Silica)に大別されます。

1-1-1.天然石英ガラス

天然石英ガラスは水晶の粉末を原料としてこれを高温で溶融してガラスにすることで作製されます。水晶の結晶粉末を溶融する熱源によって電気溶融石英ガラス(Fused Quartz Glass by Electric Furnace)と火炎溶融石英ガラス(Fused Quartz Glass by Oxy-Hydrogen Flame)に分かれます。

  1. 電気溶融石英ガラス(Fig. 2)

    Fig. 2 Conceptual schematic of the fused quartz glass fabrication process using an electric furnace.

    半導体分野などで最も広く使用されている石英ガラスです。天然の水晶粉末を特殊な電気炉で溶融してガラスにしたものです。熱源がドライであるため水分の混入が少なくなります。一般に水分はOH基としてSiO2中に存在し、ガラスの軟化温度を下げます。しかし電気溶融石英ガラスはOH基を少量しか含有しないため軟化温度は低下せず、高温にも耐えることから半導体の前工程などには多く使用されています。不純物の含有量は少なく、Al、Ca、Fe、K、Li、Na、などがいずれも0.1~10ppmのオーダであり高純度です。OHの含有量は5ppm以下となっています。

    その他の特性は以下の通りです。(いずれもメーカのカタログなどによるものでありこれらを保証するものではありません)
    屈折率:1.4585 (波長:589.29nm)
    線膨張係数:5.5x10-7/℃
    軟化点:1700~1720℃

  2. 火炎溶融石英ガラス(Fig. 3)

    Fig. 3 Conceptual schematic of the fused quartz glass fabrication process using an oxyhydrogen flame.

    天然の水晶を原料として製造する点は同じですが、加熱溶融する熱源として電気炉ではなく酸素・水素バーナを使用する点が異なります。酸素と、水素ガスを流したバーナの火炎中に水晶粉を少量ずつ落下させ溶融させて液滴とし、種棒や基板などに固化堆積させて作られたものです。

    高温の火炎の中で一旦溶融されているため泡などの混入が少なく非常に均質なのが特徴です。材料としての純度については電気溶融石英ガラスと同程度ですが、ただ、酸素と水素の熱化学反応で生じた水分雰囲気中で溶融するためOH基を電気溶融石英ガラスよりは多く含みます。このため軟化温度は1660℃と電気溶融石英ガラスよりは少し低くなります。

1-1-2.合成石英ガラス

原料として、四塩化シリコン(SiCl4)などのシリコンの塩化物を使用して石英ガラスを製造したものです。天然の水晶を使用していないため合成石英と呼ばれています。合成石英はOH基を含むものと含まないもので分類されます。

  1. 有水合成石英ガラス(OH-high content synthesized silica glass)(Fig. 4)

    Fig. 4 Method of making synthetic silica glass.
    Reference: US patent 2,272,342, February 10, 1942 (Method of making a transparent article of silica).

    室温で液体状態の四塩化シリコン(Silicon tetrachloride)を加熱して気体状態にした原料ガスを酸素・水素バーナの火炎中に輸送します。酸水素バーナの火炎は2000℃以上の高温になっているためその中で火炎加水分解反応(Flame Hydrolysis Reaction)が起こり四塩化シリコンは二酸化シリコンの微細な液滴になります。この液滴を回転する種棒の上に堆積させ徐々に種棒を引き下げていけばロッド状の合成石英ガラスを製造することができます。

    合成石英ガラスは四塩化シリコンを蒸発させて作るため、その不純物含有量はppbのオーダまで少なくなっています。

    ただ、熱源として酸水素バーナを使用しているため、火炎溶融天然石英ガラスと同様にOH基の含有量は多くなります。なお、原料として四塩化シリコン以外にも、トリクロロシリコン(SiHCl3)、シラン(SiH4)なども使用して石英ガラスを合成することも可能です。

    ガラスの均質性などに優れており、半導体LSIのフォトマスク用として多く使用されています。また分析用、光学部品用などのキャピラリー製造に多く使用されます。

  2. 無水合成石英ガラス(OH-free Synthetic Silica Glass)

    原料は前記の有水合成石英ガラスと同じ四塩化シリコンです。原料を気体状態で酸素・水素バーナの火炎中に輸送するのは有水合成石英ガラスの製法と同じですが、火炎の温度を低くして粒径1μ以下の二酸化シリコン(SiO2)の細かな粒子にして回転する種棒の上に下方から堆積させます。種棒を徐々に上昇させていけばこの石英ガラスの粒が溶着(Melt and Attach)した白いポーラスなロッド(soot)ができます(Fig. 5)。このロッドをヘリウムガス(He)と塩素ガス(Cl2)雰囲気中で熱処理して脱水と透明化を行い、透明な無水の合成石英ガラスを得ることができます。

    上記の無水合計石英ガラスの製法は光ファイバの製造方法であるVAD法(Vapor-phase Axial Deposition)(Fig. 6, Fig. 7) を簡略化したものです。VAD法では光ファイバ用原料としてSiCl4以外にGeCl4、BCl3なども用いています。

    無水合成石英ガラスの純度はOH基含めてppbのオーダまで低減されており、石英ガラスの中でも最も高純度な材料です。

    無水合成石英ガラスを使用したキャピラリーは特に赤外域での吸収を問題にする光ファイバに関連した応用やハイパワーレーザ(High Power Laser)のコンバイナー(Combiner)の用途などに適用されます。

    Fig. 5 Soot preform.

    Fig. 6 The vapor-phase axial deposition (VAD) process

    Fig. 7 VAD preform (right side).

1-1-3.その他の石英ガラス

天然石英や合成石英で説明した製造方法以外にも、熱源としてプラズマを使う方法もあります。この場合はOH基の混入が少ないメリットはありますが、微細な泡の混入がある場合もあります。

またSiO2の純粋な合成石英ガラス以外にもフッ素ドープした石英ガラス材料もあります。この材料は紫外線での光の透過率が良くさらに石英ガラスよりも屈折率が小さいため、ハイパワーレーザのコンバイナー作製用のキャピラリーや超小型紫外線ランプ用のキャピラリーとして近年特に注目されています。

1-1-4.石英ガラスの性質
  1. 熱的特性

    熱的特性:CRCのHandbook of Chemistry and Physics によるとSilicon Dioxide (Vitreous)のmelting pointとして~1700℃と掲載されています。ガラスは結晶と違って明確な溶融温度(Melting Temperature)というものがありません。ガラスの温度を上げていくにつれてその粘性(η)は徐々に低くなり、η=107.6 dPa・sになった時の温度をガラスの軟化点と定義しています。従って各種石英ガラスの軟化点の高低でその耐熱熱性を評価することになります(注:dPa・s=1poise)。

    しかし石英ガラス素材そのものを製造しているメーカ毎にその使用原料や製造条件、製造装置などが異なるため、同じ種類に分類される石英ガラスでもその軟化点は各社ごとに微妙に異なります。

    一般に石英ガラスの軟化点は約1700℃であり、主としてOH基の含有量によってその温度は1600℃~1720℃程度に変化します。つまりOH基が多い石英ガラスは軟化点が低く、OH基が少ない石英ガラスは軟化点が高い傾向にあります。

    それでもどの種類の石英ガラスも通常のガラスに比較して極めて高い温度まで軟化しない超耐熱のガラスであると言えます。

  2. 光学的特性

    石英ガラスは紫外~可視~近赤外(160nm~4,000nm)まで非常に透明な材料です。OH基含有の石英ガラスにおいては、OH基の吸収は2730nmに現れ、その高調波として850nm、1390nmなどにも多数の吸収が現れます(OH-Freeの石英ガラスではこの吸収は認められない)。

    一般に石英ガラスの屈折率は1.4585とされていますが、これはナトリウムD線での波長589.29nmでの値です。石英ガラスの屈折率は波長依存性を持っています。キャピラリーの製造や使用には通常はあまり影響しませんが、光ファイバの特性や、レンズにした場合の収差などには影響する場合もあります。

  3. 機械的特性

    石英ガラスのヤング率は7.2x1010Pa(10.5x106psi)であり非常に高い値を持っています。従って弾性的に伸縮し、例えば石英ガラスの光ファイバではピアノ線よりも強い特性を示します。石英ガラスキャピラリーに関しては、その長さが数mm~数10mm程度で直径も数mm程度の物では機械強度は非常に強く、通常の取り扱いで折れたり割れたりすることはまずありません。一方ガラスは脆性材料であるためガラス切りなどで表面に傷をつけ引張強度を与えれば容易に切ることもできます。

1-2.ホウケイ酸ガラス

石英ガラスよりも軟化点を低くしガラス細工をする時に加工しやすくするために開発された材料です。SiO2の他にホウ素B2O5などを含みます。主な組成としてはNa2O-B2O3-Al2O3-SiO2などです。軟化点は820℃です。

ホウケイ酸ガラス材料は管、ロッド、板などで販売されています。以前はコーニング社(Corning)がパイレックスガラス(Pyrex Glass)の商品名で販売していましたが現在ではショット社(Schott AG)の製品がテンパック(Tempax Float)またはデュラン(DURAN管)という商品名で世界的に流通しています。キャピラリーはこれらの材料を使用して加工します。ホウケイ酸ガラスは石英ガラスに比較して低価格のイメージがありますが、キャピラリーに関しては加工上の要因の方が大きく必ずしもそのようにはなりません。詳細はお問い合わせください。

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1-3.キャピラリーの寸法精度

  1. 外径・内径の均一性

    (株)中原光電子研究所のキャピラリーの寸法精度は通常品で設定値に対して±1%以内で制御されています(Fig. 8)。例えば外径φ1mmに対して±10μm以下、内径φ0.5mmに対して5μmとなります。ご要望により、内径変動を±1~3μmに抑えたキャピラリーを製造することも可能です。長さ方向での変動も1,200mmまで±1%以内で極めて均一です。

    Fig. 8 Capillary diameter uniformity

  2. 内径の真円度

    内径に関しては長径/短径の平均値ではなくその真円度が問題になる用途もあります。特に高い真円度が要求される場合に長径/短径の比が1.001以下の理想的な真円に近いキャピラリーを製造することも可能です。

    Figure9に(株)中原光電子研究所のキャピラリーの代表的な切断面を示します。他社製品(Fig. 10)比較して格段にゆがみが少ない穴形状のキャピラリーを提供できます。これらの特性は、キャピラリーをさらに二次加工して部品化する際に極めて重要になるものです。
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    Fig. 9 major/minor<0.001

    Fig. 10 Major/minor axes <0.01.

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