技術

集積型GRINレンズ(Integrated GRIN Lenses)

3-1.GRINレンズとは

Fig. 18 Refractive index change as a function of dopant concentration in silica glasses.

Fig. 19 Refractive index profile of Ge-doped silica glass.

GRINレンズとはGRaded INdex レンズの略称で、中心軸から周辺部に向かって放物線状に屈折率が低くなっている円筒形のガラスです。両端面が平面ですがレンズ作用があり平行光ビーム形成、レーザダイオードのビームシェイパー、内視鏡、光学スキャナーなど様々な分野に応用されています。

GRINレンズの原理そのものの歴史は古く、1964年に西澤潤一氏と佐々木市右衛門氏によって発明され、その後光ファイバ通信ではマルチモードのGraded Indexファイバ(GIファイバ)として高速な光通信に使用されました。

GRINレンズの材料は多成分系ガラスにLiイオン、Agイオンなどを拡散して屈折率分布を形成したものと、石英ガラスにGeやTiなどをドープしてGraded Indexにしたものがあります。

Figure18は石英ガラス中にGe、Tiなどの元素が含有された時の屈折率を示しています。横軸は元素の含有量で縦軸は石英ガラスの屈折率です。Ge、Ti、Alは石英ガラスの屈折率を高くし、B、Fは低くします。

石英ガラス系のGRINレンズには一般にGeが使用されます。Tiは少量でも屈折率を高くする効果がありますが光吸収が生じ易く、Alはガラスの結晶化を引き起こすためGeの方が望ましいとされています。

Figure 19は、円筒形石英ガラスの中心部にGeを多く含むようにして周辺部に行くに従ってGe含有量を徐々に減少させたGRINレンズの屈折率分布です。Geの含有量と石英ガラスの屈折率は直接に対応しており、その分布を動径方向での距離の二乗にすることでレンズ作用を持たせることができます。

今、光軸(GRINレンズの中心)から動径方向にrだけ離れた箇所の屈折率をn(r)とし、レンズ中心の屈折率をn(0)とすれば、n(r)は(1)式で近似されます。

n(r)2=n(0)2[1-(gr)2 + h4(gr)4 + h6(gr)6 +・・・・・]  (1)

ここでgはg値と呼ばれ焦点距離を決める2次の係数(単位:mm-1)、h4、h6は収差に関係する高次の係数です。

光軸(レンズ中心部)に近いところを伝搬する光線の場合には実用的には二次の項までを考えれば十分です。この場合、g値は式(2)で与えられます。

g=(1/r)*[1- (n(r)2/n(0)2]1/2              (2)

GRINレンズ内を進行する光を示したのがFig. 20です。

Figure 20に示すように光はGRINレンズ内を蛇行しながら周期的に進行します。その周期をPとすれば、P=2π/gとなります。レンズ中心部に点光源として入射した光は1/4Pと3/4Pの箇所では平行ビームとなり、2/4P(倒立)と4/4P(正立)では焦点を結びます。

Fig. 20 Ray trace in a graded index (GRIN) lens.

3-2.集積型GRIN (Integrated GRIN Lenses)レンズとは

Fig.21 Photo of 4-channel Integrated GRIN lens (i-GRIN®)

(株)中原光電子研究所では、石英ガラス製のGRINレンズを複数個整列させその外側を純粋な石英ガラスで覆った構造の集積型GRINレンズを実現しました(Fig. 21)。外側の石英ガラスとGRINレンズは溶着(melt and attach)されています。また、従来のGRINレンズアレイのように1本1本GRINレンズを整列させるアセンブル工程が無いため小型高集積化に適しています。またこの集積型GRINレンズは非常に精度が高く、各GRINレンズの間隔(Pitch)誤差は±1μ以下が可能です。

さらに1次元に整列させたGRINレンズのみでなく2次元に整列させたGRINレンズも開発中です。

この集積型GRINレンズ(i-GRIN®)は全石英ガラス製であるため以下の優れた特徴を持っています。

  1. 水、温度、薬品に耐性があり、信頼性に優れています。

  2. 紫外から近赤外までの広い波長範囲で透明です。

  3. 1,000℃近くまで使用可能であり、高温での光学特性、熱的特性にも優れたレンズです。

3-3.集積型GRINレンズの応用

3-3-1.コリメート光形成集積型GRINレンズ

Fig. 22 Ray trace of collimated light

Fig. 23 4-channel collimated beams(ZEMAX)

Fig. 24 Intensity profile of Gaussian beam.

Fig. 25 Gaussian beam propagation.

(a)

(b) z=+3.2mm(レンズ直径:290μm)

Fig. 26 Beam profiles observed by Ophir. (a): z = 0, (b) z = +3.2 mm for a 290 μm lens diameter.

Table1 Characteristics of GRIN lenses with various diameters

Fig. 27 Beam diameters change of the collimated beams 

Fig. 28 Wavelength filter for coarse wavelength division and multiplexing (CWDM).

集積型GRINレンズの応用例として4チャネルのコリメート光の発生デバイスの紹介をします。GRINレンズの光線軌跡は屈折率分布係数、g値によって表されます。

前掲した光線軌跡のFig. 20からわかるように、GRIN}レンズの光軸中心から点光源として入射した光はGRINレンズの長さが1/4ピッチの箇所で平行になり、2/4ピッチの箇所で焦点を結ぶことになります。

従って、4チャネルのキャピラリー型ファイバアレイと1/4ピッチの4チャネルの集積型GRINレンズを、ファイバコア中心とGRINレンズの光軸中心が一致するように接続すれば、GRINレンズの別の端面から4本の平行なコリメート光が出ていく事になります(Fig. 22、Fig. 23)。ファイバアレイと集積型GRINレンズの接続はUV接着剤または融着接続(Fusion splice)で固定されます。キャピラリー型ファイバアレイの直径と集積型GRINレンズの外側の直径はいずれも例えば1~2mm程度と非常に小さくすることが可能です。GRINレンズの直径は50μ~500μまで任意に変えることができます。

ここでは4チャネルの場合を示しましたが、8、12、16チャネルのi-GRINも提供できます。さらに3x3、4x4、8x8、12x12などの二次元集積化したものは開発中です。

このようにして形成されたコリメート光の進行方向に垂直面内での光の強度分布I(r,z)は一般に式(3)で表され、がガウシアンビームと呼ばれています。

I(r,z)=exp(-2*r22(z))   (3)

r=0における光強度が1/e2になる箇所の強度分布の広がりω(z)をガウシアンビームのスポットサイズ(spot size)と呼びます(Fig. 24)。またこのω(z)が光の進行方向に対して最小になるzの位置(ここでz=0とする)をビームウエスト(Beam waste)と呼び、この位置でのスポットサイズをω0(Beam waist size)と定義します。

このようなガウシアンビームの伝搬の様子をFig. 25に示しました。

ガウシアンビームの広がり角θは近似的に式(4)で表され、レンズから出射したコリメート光線はビームウエストの位置で一旦絞られ、その後角度θで広がっていきます。

θ=λ/(π*ω0*n)     (4)

実際にビームを観察した結果をFig. 26 (a),(b)に示しました。

Table 1 よびFig. 27に集積型GRINレンズの各種レンズサイズに対するBeam Waist位置とBeam waist sizeを示します。

(株)中原光電子研究所では、お客様のご要望によりGRINレンズのレンズ径とアレイ数はカスタム対応も可能です。

このようなコリメート光は各種の光部品に応用可能です。光通信用で最も代表的な応用例としては4波や8波のCWDMフィルターがあります。誘電体多層膜をMUX/DEMUXのフィルターとして使用し、これと集積型GRINレンズを組み合わせればFig. 28の部品の実現が期待されます。集積型GRINレンズを使用すれば、1波長毎にレンズ位置を調心して組み立てる必要が無いため生産性が上がり、振動や温度変化にも強く高信頼のモジュールの実現に寄与するでしょう。

同様なコンセプトで、これまで1波長毎または1信号チャネル毎にレンズ位置を調心して組み立ていた多くの部品を、集積型GRINレンズにより簡単にまとめてアレイ化することができます。例えば、GRINレンズを前面に装着したMTコネクタ(Expanded Beam MT, EB-MT)、アレイ型BiDi (Bi-Directional Coupler)、アレイ型アイソレーアなどにも応用できます。

このことは光通信用部品に限らず、一般的な光センサーアレイ、分光分析用の光学ユニット、小型・携帯用PCR(Polymerase Chain Reaction)の光学系、OCT(Optical Coherent Tomography)用光学系、医療用ファイバスコープの光学系など多くの部品に応用可能です。

(株)中原光電子研究所では、集積型GRINレンズの販売のみでなく、お客様の要望をお聞きして集積型GRINレンズを使用した光部品の受託開発・商品化をいたします。詳しくは下記までお問い合わせ下さい。

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3-3-2.シリコンフォトニクス用垂直結合部品への応用

(Fiber Arrays for Vertical Coupling of Silicon Waveguide)

Fig. 29 Collimating-type straight-type low profile coupler (S-LPC) using a prism.

Fig. 30 Focusing-type S-LPC using a prism.

Fig. 31 S-LPC with an angled fiber array.

Fig. 32 S-LPC with an angled i-GRIN

Fig. 33 Photograph of i-GRIN® and micro-prism for silicon photonics S-LPC

Fig. 34 Optical output from the angled i-GRIN for S-LPC

Fig. 35 Two-dimensional i-GRIN (3x3=9 lenses)

近年シリコン導波路を使用したシリコンフォトニクスが特にデータセンタにおいて盛んに用いられるようになっています。シリコンフォトニクスは将来の6G、自動運転、IoT、AIに欠かせない技術と考えられています。しかし、シリコン導波路と光ファイバを接続する技術は未だ未成熟であり、この事がシリコンフォトニクスの本格的な導入を妨げている要因の一つとなっています。シリコンの導波路は光のスポットサイズが1-3μと非常に小さいため、10μのスポットサイズを持つ通常の単一モードファイバ(single mode fiber)と接続することが困難です。

このため導波路上にグレーティング(Grating)を形成し光を導波路の上方に出射させてスポットサイズを広げ単一モードファイバとの接続を容易にする方法が解決策の一つとして注目されています。

しかし、通常の光ファイバアレイを用いた場合光ファイバは導波路の上方に伸びますから部品の厚さが厚くなり実装上問題となります。このため光ファイバを曲げてファイバアレイを作製する方法なども実施されていますが、光ファイバは曲げに弱いため破断しやすく損失増加、コストアップなどの問題も新たに発生しています。

(株)中原光電子研究所では光ファイバを曲げずに、光そのものを曲げて薄型のファイバアレイを考案しました(Straight-type Low Profile Coupler :S-LPC)。光ファイバは直線状のままですから、光ファイバの曲げによる破断や信頼性の劣化、損失増加は本質的に起こりません。また従来のV溝型ファイバアレイやキャピラリー型ファイバアレイがそのまま使用可能です。S-LPCの部品高さはわずか3mm程度が容易に達成できますが、1mmまたはそれ以下の高さの超薄型化も可能です。

以下の各種S-LPC構造はいずれも光学的シミュレーションによって低損失な特性を有する事が明らかになっています。

Figure 29にGRINレンズを2枚使用したS-LPCの例を示します。この場合は、シリコンチップからの光はコリメートされて光ファイバに結合しますのでアラインメントが容易になります。

Figure 30は1枚のGRINレンズとマイクロプリズムを使用して焦点で結合させた例です。Figure 31は端面を45度に角度研磨した通常のファイバアレイからの光を、直接GRINレンズを通してシリコンチップに結合させる例です。Figure 32はGRINレンズの端面を45度に角度研磨してシリコンチップに光結合させる例です。特にFig. 31とFig. 32に示すS-LPCは、構造が最も簡単でしかも超薄型(1mmまたはそれ以下)の光結合部品を提供できるものと期待されます。

これらのS-LPCに使用する集積型GRINレンズ(i-GRIN®)とマイクロプリズムをFig. 33に示します。

また4本の光ファイバから角度付きGRINレンズに入射した4本出力光はFig. 34により観察する事が出来ます。

さらに集積型GRINレンズは一次元の配列のみでなくFig. 35に示すように二次元の配列の可能です。二次元集積型GRINレンズと二次元キャピラリー型ファイバアレイを使用すればFig. 36に示すファイバアレイが実現できるものと期待されます。

一般にはファイバアレイのピッチは光ファイバの外径125μm(または80μm)以下にすることはできません。しかし、Fig. 36に示す二次元型配列を使用すればファイバアレイのピッチを任意に狭くする事が可能となります。これに呼応してシリコンチップの導波路間隔も狭くすればシリコンチップの幅がその分狭くなり狭面積化します。つまり二次元S-LPCはシリコンチップの経済化に寄与することになります。

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Fig. 36 Two-dimensional S-LPC

3-3-3.マルチコアファイバ用Fan-out/Fan-inへの応用

(Application for fan-out/fan-in device of Multi-core fiber)

Fig. 37 Ray trajectory of fan-out/fan-in component

マルチコアファイバ(Multi-Core Fiber: MCF)は1本のファイバで超大容量伝送が可能である特徴があります。さらに形状が丸くて細いためリボンファイバよりも機器内・機器間配線にも使いやすい特徴があります。しかしMCFの実用に際して解決すべき最大の課題は未だ実用的なそのfan-out/in部品が無い事です。

これについても集積型GRINレンズを使用すれば全く新しいコンセプトによってMCF用のfanout/in部品が可能になりますFigure 37は集積型GRINレンズを用いたMCF用fan-out/in部品の光線軌跡を示したものです。GRINレンズの光軸に対してオフセットをかけて光を入射/出射させることによりfan-out/in作用を持たせることができます。Figure 37ではMCFのコア間隔が40μmの場合これを125μ以上に広げた例を示しました。広がった側では125μのファイバを接続することができます。

3-3-4.VR眼鏡、網膜眼鏡への応用

(Application for fan-out/fan-in device of Multi-core fiber)

Fig.38 Ray trace of RGB combiner

VR用の眼鏡や網膜眼鏡(Retina glasses)では赤(R)、緑(G)、青(B)の光を結合するデバイスが必要になります。集積型GRINレンズを使用すればこのRGB結合器を実現することができます。Figure 38にその構成と光線軌跡を示しました。まずRGBの光を集積型GRINレンズでコリメート光にして結合用のGRINに入射させます。RGB各光源の入射位置は、屈折率の波長依存性を考慮して結合用のGRINレンズの出射側端面で焦点を結ぶように設計されています。

集積型GRINレンズのRGB結合器は、光源とレンズとの結合や位置合わせが容易、小型、軽量、低損失、振動に強い、高信頼などの優れた特徴が期待されます。

(株)中原光電子研究所では、これまで述べた集積型GRINレンズを使用した応用製品の試作、受託開発を行っています。また、皆さまのアイデアの実現のために設計・試作を受託します。

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